伊吹山タンポポ分布調査報告
2008(H20) 年7 月   作成:筒井杏正
調査期間= 2007 年6月(山頂部山小屋周辺)、2008 年4 月〜 6 月(3〜8合目、山頂部山小屋周辺)
急激に侵入するセイヨウタンポポと著しく減少する在来タンポポ。

●侵入するセイヨウタンポポ
 セイヨウタンポポはヨーロッパ原産の多年草で、明治時代に渡来して以来、現在では都市部を中心にどこでも分布している。これは、本来生育する在来種のタンポポが外来種のタンポポに追いやられ、姿を消していることから日本侵略と考えられ、タンポポ戦争と言われてきた。しかし、近年では農村部でも広く侵略し、この勝敗は自然破壊のバロメーターともいわれる。このような中もっとも懸念されるのは、伊吹山において、すでに伊吹山ドライブウェイ8合目駐車場はもとより山頂の人が踏み入った裸地には、セイヨウタンポポが繁茂し、本来ある在来種に大きな影響を与えている。特に伊吹山には固有種であるイブキタンポポと、湖北地方に多いセイタカタンポポが生育し、これらの種の保存を考えれば、セイヨウタンポポの除去は、環境保全における必須の条件と言える。
  ただ、すでに山頂広場まで蔓延している現状において、山頂部分の除去作業は、適確なのか、あるいはその他伊吹山の「生物の多様性」という視野から植生環境を保全する効果的な管理方法(計画)はないのかなど探る必要がある。このため、セイヨウタンポポの侵入ルートを探る分布調査を実施した。しかし、ここでは調査データ結果のみ公表し、現段階での分析による総評は控えた。今後はタンポポのみでなく、その他外来種侵入のルートを探る分布調査を毎年適切な時期に数度実施する予定である。

■網羅的調査法
 従来の植物種のアセスメント(コードラート法)は、経験と知識がある人が適当に歩き回って種のリストをつくるという方法で行われてきた。しかし、本調査は、区域も対象種も限られ明確であり、また本会では、このような経験者も少なく、今後のニーズを考えると定量的で、誰がやってもある程度同じ結論に達するような標準的な分布調査が必要と考え、九州大学教授矢原徹一氏のネットワークセンサス調査(植物種の分布の定量的・網羅的調査法)を真似て実施した。調査する人手は必要だったが、これは、グループとしての利点を活し、それほど知識がなくても可能な方法のため、徹底した調査を行うことができた。

■ 調査法
【種の同定と分別】
 在来種と外来種の2種のみとし、在来種の細かな分別はしなかった。種の判別は、総包外片が反り返っているのを外来種、いないのは在来種とした。また、総包外片が中途半端に反り返って交雑種と見られるものはすべて外来種とした。ただし、3〜4合目のみ別にカウントした。
【調査範囲】
 登山道の道幅中軸から左右2mとし、一合目区間ごと、タンポポ株は10 株単位でカウントした。
山頂部山小屋周辺は、昨年同様8ブロックに分け、全面を網羅的にカウントした。
【調査区域】
 調査区域は、登山道側と山頂山小屋周辺とした。
 ・登山道=3〜8合目
  3〜4合目は、東と西の2本の登山道を対象とした。
 ・山頂=山頂トイレ〜休憩石段(集水区)
  スピーカー設置場所〜山小屋周辺〜南側斜面の旧測候所(※山頂概要図参照)

<セイヨウタンポポの強力な繁殖力>
 1. 開花時期は、主に春咲くが、その後も一年中ポツポツ咲き続ける。
 2. 受粉しなくても単為生殖によって結実する。
 3. 悪い環境(痩せた土地や裸地)に適応できる能力がある。
 4. 種が軽くて良く飛ぶ。
 5. 在来種と交配し、雑種をつくる。

<伊吹山登山道&山頂部タンポポ調査データ>
 1. 登山道(滋賀県側)タンポポ分布調査(2008.04.30)→
 2. 山頂部(遊歩道、山小屋周辺)タンポポ分布調査(2008.05.18、05.25)→

●登山道(滋賀県側)タンポポ分布調査(2008.04.30)
 1.登山道4〜8合目分布調査
▼3合目〜山頂マップ
6合目以上に見られる
伊吹山固有種”イブキタンポポ”


1. 登山道4〜8合目タンポポ株数分布調査
 ・調査期日=2008.04.30
 ・調査場所=4〜8合目
 ・調査方法=目視による網羅的調査
 ・調査延人数=15人
 ・調査員=酒井、舟山、筒井、和田、若尾、福田


2008.0430
「登山道タンポポ分布調査」7合目付近

●4〜8合目登山道(数値単位は株数)
NO
登山道
在来種
外来種
交雑種
合計
在来種被度
01
4〜5合目
255
11
0
266
95.9%
02
5合目広場
135
9
0
144
93.8%
03
5〜6合目
255
5
2
262
97.3%
04
6〜7合目
185
0
0
185
100,0%
05
7〜8合目
90
4
1
95
94.7%
合 計
920
29
3
952
93.6%

<登山道4〜5合目調査総評>
 4合目以上の登山道では、外来種の侵入は思いの外、わずか7.3%であった。この状況から考察すると、山頂での外来種の蔓延は、ドライブウェイ側からの侵入が主たる原因ではないかと思われる。
 ただし、外来種の侵入は、0ではなく、5合目広場等人が踏み込む場所の外来種被度は高くなる。また、交雑種も3株確認された。
 このように侵入種が生物多様性に問題を引き起こすことが疑われる時は、「潔癖」が証明できるまで罪である、という姿勢で臨むことは必要と思われる。
 2.3〜4合目タンポポ分布調査(2008.05.03)

▲3合目から山頂を望む

▲4合目から3合目を見下ろす


2. 登山道3〜4合目タンポポ株数分布調査
 ・調査期日=2008.05.03
 ・調査場所=3〜4合目(西側登山道・東側登山道)
 ・調査方法=目視による網羅的調査
 ・調査延人数=16人
 ・調査員=若尾、酒井、幸田、筒井、和田、舟山
 ★3〜4合目 西側登山道(W)(数値単位は株数)
NO
西登山道
在来種
外来種
交雑種
合計
在来種被度
01
W−1
51
20
0
71
71.8%
02
W−2
152
106
11
269
56.5%
03
W−3
75
34
6
115
65.2%
04
W−4
45
26
0
71
63.4%
05
W−5
55
6
2
63
87.3%
06
W−6
6
8
0
14
42.9%
合 計
384
200
19
603
63.7%
 ★3〜4合目 東側登山道(E)(数値単位は株数)
NO
東登山道
在来種
外来種
交雑種
合計
在来種被度
01
E−1
11
18
1
30
36.7%
02
E−2
250
295
4
549
45.5%
03
E−3
300
26
0
326
92.0%
合 計
561
339
5
905
62.0%

●3〜4合目の総合株数 (数値単位は株数)
NO
3〜4合目
在来種
外来種
交雑種
合計
在来種被度
合 計
945
539
24
1,508
62.7%
▲5合目の広場で見つかった茎が肥大化した奇形のタンポポ。タンポポにはよく見られるということだが、土壌に高濃度の有機リン系の物質が含まれていることも考えられる。
<登山道3〜4合目調査総評>
 3 合目は、登山道を車道が横切っている。特徴的なのは、外来種がこの車道に集中し、東側登山道および西側登山道はともに43.5〜63.3% と高い被度を示している。これは、伊吹山ドライブウェイにおける状況と同じである。
 登山道側は、まだ山頂部ほどではないが、3〜4合目は外来種がすでに4割弱侵入している。このまま放置すると優占種となり、在来種との交雑も進んでいる。